Title: 36週 子宮内死亡
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経済的事情もあり素直に喜べない妊娠でした。 ですが、初診時に先生からやさしく言われました。 「あなたにかかってるんだよ。ご飯を食べて素直においしいって思ってれれば大丈夫。赤ちゃんはちゃんと育ちますよ」 先生も看護婦さんもこの小さな命を心から喜んでいる。 母親の私がこの命を否定してどうするんだと目が覚め、腹をくくりました。
臨月に入り出産準備も整った矢先のことでした。 就寝前「そういえば今日は胎動が無かったような…。あれ?昨日はどうだっけ??」 不安な気持ちを否定するように「いつも夜中になったら暴れだすから大丈夫。明日は検診だし」とのん気にしていました。
朝になってからも、動きませんでした。 ご飯食べたり、好きな音楽聴いたり、話しかけたり。 今までなら、反応が返ってきていたのに、何をやっても無反応。 焦る気持ちをおさえつつ「大音量でドライブすれば起きる!」と、 検診に向かいました。
助産師さんに動いてないことを伝えると、 「本当は今日はエコーやらないんだけど、念のためエコー見てみよう」と心音はとらずにエコーの手配をしてくれました。 しばらくして、先生がやってきてお腹にエコーをあてて1秒で悲しい現実を目の当たりにしました。 どう見ても、心臓が止まっていました。 先生からも「悲しいけれど、心拍が確認できない」と告げられました。
カーテンの向こうにはたくさんの妊婦さん。 泣くことなんて出来ません。 必死にこらえつつもポロポロ涙がこぼれました。 いつもはやったことのないエコーの機能を使って細部まで確認してもらい、心停止から数日経っている事が分かりました。 念の為、もう1人先生がやってきて、2人で再確認。 「やはり赤ちゃんはもう助かりません。このあと、検査と状況をご説明します」
エコーブースのカーテンを開けてからは冷静でした。目の前の妊婦さんを不安にさせちゃいけない。笑ってなきゃ。 先生から説明を聞き、週末にあたる事、炎症反応もないということで、2日後の入院になりました。 「2日間、赤ちゃんとゆっくり過ごしてね。」
翌日。あかちゃんの洋服を買いに主人とベビー洋品店へ。 店に入って、一番目の前に天使の羽のついた服がありました。 いつもならどぎつい色の服が並んでる所なのに、なぜ今日はこの服が出ているの? 普段ならとうてい手が出せない値段でしたが迷わず購入しました。 最初で最後のベビー服です。
ふと気づくと、回りは妊婦や赤ちゃんばかり。 当然の光景ですが、想像以上に心にグサグサ突き刺さりました。 戌の日にお参り行った神社も参拝しました。 傍からは、出産目前の幸せなカップルにみえたことでしょう。
入院前に実家へ挨拶に行くと、父がポロッと涙を流しました。 父の涙は祖母の葬儀以来初めてです。
出産前の処置や促進剤が効かないままに、入院4日目。 「勝負に出ます!」と、担当医の顔つきが変わりました。 破膜処置をして破水すると、一気にお産が始まりました。
苦しいところから早く出してあげなくちゃ。 赤ちゃんと分かれたくない。 赤ちゃんが死んでいることを認めたくない。
いろんな感情がごちゃまぜになっていました。 分娩台にあがったらすぐにするするっと産まれてくれましたが、先生が取り上げた瞬間、とうとう現実と向き合ってしまいました。 陣痛は半端ないし、パパも付き添ってる、普通のお産と何も変わらない。そこに産声が聞こえない以外は…。
へその緒を切って私のもとに。なんて可愛いのでしょう。今にも産声をあげそうな穏やかな表情。 この数日押し殺してきた感情が爆発しました。 まるで私が赤ちゃんになったように、大きな声でワンワンと分娩台で何分も泣き続けました。 私が落ち着くまで、スタッフ全員がそっと見守ってくださりました 。 赤ちゃんも私も身体をきれいにしてもらい、数時間一緒に過ごしました。 ずうっと抱いていたい。 「月」を名前に使った我が子の誕生日のお月様を見たい。 いろんな人に、「今夜の月を写メして」と頼みましたが曇っていないのにどこの場所からも見えません。 きっと私のもとに降りてきているから空には月がないんだ。
翌日退院。葬儀屋さんが病院にやってきてテディベア柄の棺に寝かせました。火葬までさらに2日。 家に居る間ずっと抱っこしていたいけれど、赤ちゃんはとても傷つきやすくなっていたので、棺のフタをなでるまでにしました。 葬儀には、県外から兄もかけつけてくれ、家族みんなでおくってあげることが出来ました。
食事をとらない私をみて4歳の長女が「ちゃんと食べないと赤ちゃん抱っこできないよ。ダメだよ」 もうあの子は抱きしめられないけど、空から笑われないようにしなきゃ。 四十九日の夜。空を見上げると煌々と輝くまん丸お月様。 ちゃんとお空に帰れたんだね。
死産から半年。主人とは、諸々の事情で離婚しました。 あの子がわたしのお腹に再び宿ることはないけれど、いつまでも一緒です。 長女は、妹をとっても大事にしています。お菓子を分けたり、絵を描いたり。 ありがとう。あなたのおかげで、みんなやさしい人になれたよ。
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